美容歯科(2)
美容歯科について

美容歯科とは
審美歯科と美容歯科は意味が異なります。違いは治療の目的が異なることです。
審美歯科では
黄ばんだ歯 → 白い歯
欠けた歯 → 整った形の歯
というふうに色や形を 「一般的な基準で修正する=置き替える」 ことが治療のゴールになります。
これに対して、美容歯科は審美歯科のようにセラミックを被せ直しただけで済ますのではなく 患者の固有な要望や現在地の問題点を解決する治療です。
患者の希望を現在の口の中でどう実現してゆくかをいっしょに考えながら進む治療です。「オンリーワン・デザイン・セラピー」と呼びます。
ドレスの購入に例えると
審美歯科 は 店頭に陳列してある既製品ドレスを選ぶ と言えます。
それに対し 美容歯科 は オーダーメイドの仕立て です。どう違うのか以下の数例の症例から推察ください。
虫歯の治療や神経の治療後の歯のへ凹みをどうするか は悩むことがあります。奥歯では、詰め物が長持ちするために銀歯(金パラ)の詰め物や被せ物が一般的です。私も耐久度という点では、こうした治療を保険診療で行うことを支持します。
しかし、同時に銀歯という見た目に異物感あるものに対し、治療した部位を審美的な視点で歯の色に近いものに合わせたいという思いが沸き起こることも理解できます。
しかしここからが問題です。厄介だし困惑する部分です。
白っぽい素材ならば何を詰めても見た目も耐久性も同じなのか?歯科治療では いろいろな歯科クリニックでここからの話が怪しくなってきます。
まず綺麗だからセラミック・・と勧められてもそもそもセラミックにもいろいろな種類があって 元々の原価も極端に違えば製造者(中国製か日本製か・・)も異なった状態で十把一絡げで「セラミッククラウン」と提示されてもエステニアとジルコニアでは10倍の硬度差があります。ですから耐久度は推して知るべしです。
そもそもですがセラミックの中で再強度を誇るe-maxでさえ銀歯と比較すると強度は2/3しかありません。したがって、かみ合わせの力が大きくかかる大臼歯では明らかに強度不足です。
ホームセンターやスーパーの中のクリニックで安く作ってもらったら、たった2週間で割れてしまって・・・よくある話です。
ところで当院では「審美歯科」でなく「美容歯科」と標榜しています。ただ「歯の美容」と聞くとわかったようなわからないような気分になる方がいると思います。審美歯科ならわかる、たしかに・・・美容って少し怪しいのでは?私も昔は審美歯科を標榜して患者の治療しておりました。
当時は銀歯をメタボン(金属の表面にセラミックを焼き付けたクラウン)に置き換える治療をそう呼んでおりました。現在地ではメタボンがオールセラミックに変わっていますがやってることは同じです。
では美容歯科とは何か?
銀歯を白い歯に置き換えた後にも歯自体の形・色や歯の生えているポジションが悪いと見栄えが良くないことがあります。ブラックラインやブラックトライアングル、叢生や不自然な隙などがこれに当たります。これらの問題は歯列矯正の治療目的と重なることもありますが、矯正だけでは歯や歯肉の形態は改善しないので、これが問題になるときは形の修正という治療に踏み込んでいかなければなりません。
歯の色のみならず形 歯肉 歯と歯の隙間治療する部位以外との色のマッチングで作り物でなく「自分の歯が綺麗になって蘇った」と感じられる・・一口に言えば、これが美容歯科です。
私は、疾病の結果自然な口元を失ってしまった方へどうしたら元に戻せるかという相談から入ります。いろいろ説明や治療例を提示させていただき、自分に失われた機能を再構築するのに必要な素材や治療に要する時間を理解していただくことができます。その中でご自身が今できることを見つけてください。自分の治療目標が決まったら我々は貴方のために最大の努力を払います。
カウンセリング・診査
ブラキシズムにより歯根破折を起こした状態(レントゲンで左下の奥歯)
まず何が問題でどういう治療法が候補になって何が貴方にベストな選択になるか美容歯科専門医の立場からコンサルティングします。
問題点の少ない症例ではこのステージで治療法が確定して見積もりが出せます。

美容治療を成功へ導くために必要な診査を行います
レントゲン診査(デジタルレントゲン必要であればCT)を行い支台歯の歯に虫歯や根尖病変、歯周ポケットなどの問題が無いかを診査します。

歯列不正やわずかな咬合異常が存在すると長期的には歯が壊れていく原因になるため 治療の前に咬合の診査をします。これには貴方のお口の状態の歯型をとって石膏模型にした上で分析します。この分析で最終的な治療の方針と確定した見積もりが出ます。療法が確定して見積もりが出せます。
問題点を整理してエビデンスのある美容治療を確定する
もし従来の装着物が壊れたのであれば必ず原因があったはずです。

例えば
・ブリッジが耐久性のない無理な設計や印象や支台歯の形成が不良だったり
・主治医がセラミックの形を歯科技工士に任せた挙句実際の口腔内では審美的に不備な例
・大臼歯などの強い力が加わる歯の治療にそもそも耐久性の無いセラミック(例 エステニアや保険のCAD/CAMに類するもの)を装着してしまって すぐに割れた
・歯の土台でファイバーコアを採用したがフェルールが無いなど適用条件を満たしていないため 差し歯がファイバーコアごと外れてきた
など
こうした壊れた原因を見直して今後の正しい対応法を貴方と話し合って長期間お口の中で使えるような歯を作るために必要な治療法を確定します。
美容治療に必要な前準備を行います
セラミックで複数の歯を治療する場合最終的にどういう歯の形にするか歯の幅や長さ歯の豊隆などを決めなければなりません。そして、そういうモデルが実際の口の中でぴったり合うかどうかを見極める必要があります。

歯の形を決めるにはあらかじめ患者から「歯の形をどうしたいか」という希望を聞いて それを実現するためにワックスアップという歯の形を決める作業を行いこれに基づき仮歯を用意して治療の前準備をしておく。
美容治療では こうした厳格で患者の目に触れない部分でのかなり手間と時間・費用がかかる部分が必要になります。
歯を削るためには歯科医師のいい腕はもちろん必要ですが「いい腕」は天性のものでも もちろん腕力でもなく「知性の力」です。
こういう歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士ら何人もの専門家で時間とコストをかけて行う下準備すべてが治療費に含まれるので美容歯科にはある程度のコストは必要になりますことをご理解ください。
精密な美容治療は“勘”や“センス”でなく科学です
支台歯を支える歯が神経を温存した生活歯かあるいは神経の無い失活歯かにより土台の必要性の可否が決まります。土台が必要な場合 それをファイバーコアで入れるかメタルコアにするかの使い分けは 補綴治療の厳格な基準があります。

歯の残存部分が少なくてファイバーコアが歯根から短期に抜け落ちるようでは困りますから どんな症例でもファイバーコアが入れられるわけではなく ファイバーコアとメタルコアにはしっかりした使い分けがあります。もちろん ファイバーコアは白い物性なのでセラミックを被せる場合 審美的な優位性ありますが 土台でメタルを使用した場合には 審美効果を減衰させないための歯の形成法があります。いずれにしても、歯の強度をしっかりと維持できる それを守ると軽く20年は耐久性のある治療が可能になります。
もちろん このときは事前に作成したステントをガイドにして形成し 歯冠長・オーバージェット・オーバーバイト・歯冠に付与する平行性の希少部分の確保を行いながら形成します。つまり 審美歯科での歯の形成は 経験や勘、センスなどというもので行う操作とは一線を引くものです。
美容治療はいろいろな点で 現状の咬合を修正することがほとんどです。従って、新しいモールド(形)を実現するためには 他の部位との調和を図らなければなりません。美容治療で得られる形は 他のすべての他の歯と調和を確定して初めて得られる結果なので この形態は ほぼ1通りしかありません 美容歯科は術者の勘やセンスで決まる部分は全く無く その形態は咬合のバランスを反映した科学的な形態として表現されるのです。
例えば セラミックを歯根部分から支える“土台”をどう作るのか?という見た目ではなく耐久度の要望からして 設計の違いは多く出ます。
セラミックで歯の色を表現する場合 その色の確保に必要な“セラミックの厚みの確保”が必要になります。すると 土台を支える歯根の直径からセラミックの色付けに必要な厚みを差し引き土台の太さがやっと決まります。
土台の直径 = 歯冠の太さ ― セラミックの厚み
です。すると 土台の直径が少し細くなることもある訳で 土台を作るのにファイバーコアを用いることもあればファイバーコアの必要条件を満たすことができずにメタルコアになることもあります。この使い分けには補綴学的にエビデンスある診断を伴います。コアには破折しにくいからファイバーコアを用いる、という考えは耐久性を著しく損なうことがありますので、無条件で施術することは慎まなければなりません。
セラミックを長く維持するために必要な診査とケア
そもそも奥歯が壊れたりする原因は 壊れた歯の反対側の奥歯が噛みにくかったり あるいは 無くて噛めなかったり あっても使用していなかったりした習慣(片噛み癖)がある可能性があります。

前歯が折れたりするケースでは奥歯が無かったり前傾して咬合高径が低くなっているため、前歯が奥歯のように咬合力が集中していることがとても多いです。
壊れた歯を直して再度快適な生活に戻ることは大事ですが現在の口腔内の問題点の是正をせず食習慣の問題点も放置したままではまた近日中に破損の憂き目を見る可能性があります。
主訴となった破損部位とともにその原因となったお口の問題点も修理すべき部分があれば 治療を加えることは必要となるでしょう。
また歯が壊れる原因としては虫歯や歯周病といった「疾病」以外に自分だけの癖で歯を壊してしまう方が多いです。これには、噛み癖歯ぎしり食いしばり(TCH Teeth Contacting Habit)という目で見てわかるデータ(レントゲンや歯周ポケットなどの数値的に測れるもの)では現れない問題点です。
こうした要素をすべて見直した上で治療後のメインテナンスを受けるととても長期にお口の健康は維持できます。